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二度の世界チャンピオンに輝いたステファン・ランビエルは昨年、教え子の宇野昌磨も世界チャンピオンになるという節目を迎えた。ステファンは、昌磨と同じように、その栄光に甘んじることなく自らを駆り立て、教え子たちに革新と向上を求め続けている。彼のスケートに対する情熱的な愛情は、その言動や行動全てから伝わってくる。彼の話を聞いていると、スケートは単なるスポーツではなく、芸術と感情で人々をつなぐ超越的な存在になりう得るのだと思えてくる。
ブラティスラヴァで開催されたオンドレイ・ネペラ・メモリアル・トロフィーで、男子フリーの練習後、ステファンに話を聞いた。彼の教え子であるデニス・ヴァシリエフスは、ショートプログラム冒頭の4回転サルコウで激しく転倒し、4位という残念な結果に終わっていた。
ここまでの競技を振り返っていかがですか?昨日は大変でしたが、全体的にはどうでしたか?
全体的には…彼にとってはもちろん挑戦的な一歩目だと思います。シーズン初戦でしたし、ショートプログラムで4回転サルコウに挑戦したのも初めてでした。その最初の一歩でした。新しいプログラムで初めて挑戦したことがたくさんあったわけです。そう考えると、確かにベストを尽くしたとは言えないと思います。でも、彼がしてきたこと、努力してきたこと、準備してきたことは評価しています。でも、鍛錬と、自分がやってきたことや自分が何者であるかへの信頼や信念があれば、彼や私が想像しているような成果を披露することはできると信じています。だから最初の一歩は踏み出せたと思います。そしてここから積み上げていきます。
最初の一歩を踏み出すということですね。
その通り、その通りです。
昨日のようなハードな一日の後、あなたやデニスはどのようにリフレッシュしていますか?昨日のことを引きずらずに今日を迎えるためにはどうすればいいのでしょうか?
大事なのは集中し続けることだと思います。ショートプログラムが終わっても、試合が終わったわけではありません。私たちが行ったのはクイックデブリーフィングといって、ショートプログラムが終わった後も試合に集中し、何が良かったのか、何が悪かったのか、何が取り組むべき課題なのかをすぐに伝えます。そして、フリープログラムに向けて身体を回復させ英気を養います。あまり感情的にならず、言うべきことを言い、それを吐き出し、気を散らしすぎないようにする。今日はフリーがあるので、2つのプログラムの間はかなり短くなっていますね。

「自身の持つ素晴らしい能力に注力してくれる彼と共に仕事をするのは本当に楽しい」
今シーズン、どのような考えでショートプログラムに4回転を入れたのでしょうか。
彼は、それができることを自分で証明してきたと思います。だから、彼には自由に取り組んでほしいし、ショートでもフリーでも試合でやってほしいと思っています。そのリスクを負うには勇気が要ります。長期的に見れば、それが彼に必要なことであり、彼が望んでいることなのです。彼はフィジカルが非常に強いという意味でかなり強いスケーターです。でも技術的にも非常に強い。エッジのコントロールやジャンプの仕方などは、まさに教科書のようなテクニックを持っています。だからたとえ時間がかかるとしても、基礎はしっかりしていると思います。スケートでは物事のやり方というのがとても重要だと強く思います。だから自身の持つ素晴らしい能力に注力している彼と共に仕事をするのは本当に楽しいです。それに長期的に見ればこれはとても有益なことです。
昨日の練習でも美しい4回転サルコウが見られましたが、それを見て、もう準備はできているのだと思いました。あとはそれを安定させるだけですよね。
そう、それと、成功するには精神的な準備も必要だと思います。大きな挑戦ですね。彼にとって、これは大きな挑戦なんです。彼は大人で、背も高い。だから背が低くてタイミングを早く取れる人よりも、フィジカル面で難しさがあります。でも彼ならできます。信頼と一貫性をもってすれば、もっと頻繁に成功するようになるでしょう。
デニスのドヴォルザークのフリープログラムの振付の様子について少し聞かせていただけますか?交響曲全体からどのようにプログラムに落とし込んだのですか?
あのプログラムで一番大変だったのは、音楽をカットすることだったと思います。私は交響曲全体が好きなんですが、交響曲全体…?わからないけど、多分30分くらいかな。
多分40分ですね。
ええ、その通りです。だから40分の曲を4分にする必要がありました。「ああ、どうしたらいいんだろう」という感じでした。サロメ(・ブルナー、ステファンと頻繁に仕事をする振付師)と私は交響曲を何度も聴いて、自分たちが重要だと思う部分に集中するようにしました。でも重要なことがたくさんありすぎて、それをまとめると、すべてがやりすぎなように感じられるんです。そこで、物語のリズムが調和の取れた流れになるようなパターンを見つけることが課題になりました。盛り上がって、盛り上がって、盛り上がって、そして見せ場がたくさんあるのがこの音楽というわけではない、ということです。だから、何かリズムを見つける必要があったんです。
私が楽しみにしていて好きな瞬間のひとつは、ステップシークエンスが始まる瞬間です。とても穏やかな気持ちになります。そして最後に大きなバレエジャンプで音楽が最高潮に達するときには殆ど時間が止まっているような感覚です。そして、最後の嵐の前の静けさが漂う瞬間がとても好きです。彼のスケーティングや姿勢などはとてもバレエ的だと感じます。この交響曲は以前から使おうと思っていました。トレーニングや大会の帰りに、車の中で何度も彼とこの曲を聴いたものです。そして、彼の成長ぶりや表現力を見て、この名曲で滑ることができるくらいに成長したと思いました。





「音楽が最高潮に達するときには殆ど時間が止まっているような感覚」
に没頭するステファン
デニスが紡ぎ出す物語に思い当たる節はありますか?あるいは、何らかの物語があるのでしょうか?
二人でいくつかの感情や情景について話しました。彼がそれを覚えているかどうかはわかりません。でも振付をしたときにはその感情や情景は私の中にありましたし、それを彼と共有しようとしました。でも彼はユニークな個性を持っていると感じています。この交響曲『新世界より』は、その個性を世界に知らしめるためのものなのです。ユニークな存在として、彼は小さな世界にいて、その外に何があるのかよく知りません。例えばステップシークエンスを始める時、彼は新しくて大きな世界を見つけるため、そしてこの『新世界より』に込められた自らの個性を持って革命のようなものを起こすために道を切り開いていきます。
これが大体のイメージですね、彼はとても特別ですから。彼の性格は…彼そのものであり、他の誰にも似ていません。彼が何かを説明するとき、私たちは時々ついていけないことがありますが、彼には彼の物事に対するビジョンがあるのです。メールでも時々何を言っているのかわからないことがあります。で、私は「どういう意味だろう?スケートの話なのかそうでないのか…?」といった感じです。だからこの個性はさらけ出されるべきです。彼は特別だからこそ、彼を必要とする『新世界より』にうまくハマっているのだと思います。

彼を必要するこの交響曲『新世界より』は、その個性を世界に知らしめるためのものなのです」
– ステファン・ランビエル
このプログラムを皆さんに見てもらうのがとても楽しみです!生徒のプログラムを自分で振り付けるか、他の振付師にお願いするかどうかはどのように決めていますか?何か決まっているプロセスはありますか?
生徒が他の人たちと一緒に仕事をし得る方が絶対に良いですね。スケートの振付師だけでなく、何かとても目を引くようなものがあり、動きに興味があり、何か新しいことを創って持ち込んでくれる人たちです。私が覚えている限りでは、サラ・ドーラン(カナダのダンス振付師)がデニスと(島田)高志郎に振り付けたことがあります。デニスのショーナンバーを作ったフーディア(・トゥーレ、セネガルのダンス振付師)とも一緒に仕事をしました。スクール内部のショーでもフーディアと一緒に振付をしました。自分たちがやりたいと思った曲や何かを感じた曲で、自分たちの技術を向上させるためのものをいくつか作りました。その過程で音楽を見つけたり、スクールにゲストコーチとして来た人がアイデアを出してくれて、それがスケーターの個性に合うこともありました。
つまり偶然の出会いから一緒に仕事をしたり、何か新しい創作アイデアを持ち込んでくれる人と知り合ったりしています。それに「今年はこれをやって、来年はショート、その次はフリー」と固定していなくて、決まったパターンはありません。でも、スケーターが成長し、自分の持ち味を発揮し、かつ気持ちよく滑れるように、できる限り受け入れていきたいと思っています。例えば高志郎がジェフリー(・バトル)と一緒に振り付けた『Sing Sing Sing』。彼はずっとジェフリーと一緒にやりたがっていましたが、コロナが流行っている間は都合がつけられなかったんです。で、まあ、ファンタジー・オン・アイスで私はジェフリーと一緒にツアーをまわっていました。それでやっと時間を見つけられたんです。つまり私たちにはアイデアがあり、希望があり、何かをしたいという気持ちがあります。そしてチャンスがあれば、そのチャンスを掴んで楽しみます。私が教えているスケーターたちは基本的にそうしてきました。
高志郎はあのショートプログラムを本当に楽しんでいるようですし、昨日見ましたがとてもうまくいっているようです。(高志郎は当時、東京選手権大会のショートプログラムを終え一位となっていました)
そうそう、とてもいい感じです、はい。
デニスと高志郎の二人とはもう長い付き合いになりますね。彼らのコーチをし始めてから何年も経ちますが、彼らに対する指導はどのように変わりましたか?
彼らはもうすっかり大人になっています。二人ともキャリアの中で、何が必要で、どうすればいいかをよりよく理解できるようになりました。私の指導はまだ必要ですが、彼らが自分らしくいられるような自由を与えることも必要です。「こうしなさい、ああしなさい」とは言いません。でも「もっとこうした方がいいんじゃないか」「こうじゃない方がいいんじゃないか」と伝えるために私はいるのです。以前はもっと注文が多かったというか、多分今よりも私が与える影響が大きかったです。人格はすでに出来上がっています。高志郎とデニスを見ると、二人ともまったく違う性格をしていますね。それが成長して、成長して、歳を取って、長所も短所もある自分になっていくことの美しさだと思います。
そして、昌磨もまた人生の大きな一歩を踏み出し、自分のやっていることを楽しみ、人生の新たなステージにいるのだと思います。子供たちを教えるときは、たくさんの枠組みを与えてあげる必要があります。そして今、彼らはもう自分の枠組みを理解していると思います。でも時々、自分が知っていることややっていること以外にも、色々なことがあるんだということを思い出させる必要があるんです。だから、彼らが既に多くを習得しているとしても、生き生きとさせるようにしたり、学びのために好奇心を持ってもらったりするようにしています。

「私の指導はまだ必要ですが、彼らが自分らしくいられるような自由を与えることも必要です」
ちょうど昌磨がシャンペリーに戻ってきたところですよね。彼のトレーニングの調子はどうですか?
彼は実際のところかなりいい感じです。世界選手権で優勝した後にも関わらず、技術的にも芸術的にも向上し自らに挑戦し続けています。4月に彼が来た時、本当に一生懸命練習していました。長い間目指していた目標を達成した後にも関わらず、一生懸命に練習するモチベーションがあり、諦めずに努力しているのを見てとても感動しました。あんなに集中して頑張るモチベーションには本当に感心させられます。そして周りには良いチームがいて、彼を助け、サポートしています。それに彼はとても楽しい人ですし、まさに天才です。ちょうど同僚のアンジェロ(・ドルフィーニ)とも「信じられない」と話していたところです。世界チャンピオンでありながら、時間を守り、練習に遅れず参加し、言い訳をせず、責任感を持って、自分のやるべきことをこなし、前に進んでいく様子を信じられない気持ちで見ています。彼に何かを無理強いする必要はないんです。本当に感動させられます。
長い間目指していた目標を達成した後にも関わらず、一生懸命に練習するモチベーションがあり、諦めずに努力しているのを見てとても感動しました。
宇野昌磨について語るステファン・ランビエル
彼が4回転アクセルに挑戦していることについてはどう思われましたか?
そのことについてはまだ話していません。それに彼は私の前ではまだトライしていないんです。そう…なぜでしょうね?
メインコーチを務めるスケーターについてお話を伺ってきましたが、夏にキャンプや振付で一緒に仕事をしたスケーターの中で、一緒に仕事をして特に楽しかったのは誰ですか?また、今シーズンは誰に注目すべきでしょうか?
エストニアの少女がとても好きでした。Maria Eliise Kaljuvereです。これまでにも何シーズンか夏に彼女を指導していました。彼女は素敵な性格をしています。努力家でもあります。初めてのジュニアグランプリではかなり良い成績を収めてくれました(JGPクーシュベルで4位)。とても爽やかな子です。彼女の才能が花開き、それに健康でいてくれることを願っています…彼女を指導するようになったので、今後数年のうちに何かステップアップするためのものを与えて、彼女の個性を次のレベルに引き上げることができればと思います。長期的な計画としては、彼女の美しい技術をもっともっと伸ばしていくことになると思います。
彼女がグランプリ大会でこれほどまでに活躍するのを見るのは喜ばしいことです。彼女には間違いなく良い未来が待っていますね。
はい、そうですね。
今年のルール変更についてもお聞きしたかったんです。ジュニアのプログラムからステップシークエンスが削除されました。ショートプログラムとフリースケーティングを区別することは良い考えだと思いますか?
個人的には今回のルール変更は理解できません。ISUは今回のような変更を行う際に十分に深く考えていないのだと思っています。私は今回の変更にはどれも賛成できません。そうですね、他に何も言うことはありません。彼らはただ変化のための変化を起こしているのです。このシステムについてはもっとよく考えて欲しいです。
この件について、オランダのJeroen Prins選手と興味深い話をしました。彼は今回のようなルール変更について話していて、あと(ISU)総会2回分はかかるかもしれないけれど、シングル競技をよりアイスダンスに近いもの、リズムダンスとフリーダンスのようなものにすべきだというアイデアを挙げていました。ショートプログラムのコンパルソリー要素をもっと充実させ、フリーでは振付の要素を増やす。そのようなことが、長期的な目標になるかもしれません。
ISUがそのような意見をまともに検討したとは思えません。というのも、アイスダンスでは、今仰ったように、アイスダンスをアイスダンスたらしめていたパターンダンスが廃止されています。これは私に言わせれば、シングルスケーターのジャンプを廃止するようなものです。ある元アイスダンサーが言っていたのですが、彼らは普段、練習の6割はパターンダンスなんだそうです。リズムダンスからその最も特徴的なものを廃止しようというのは、私としては全く意味がわかりません。だからISUの決定がきちんと考えられているようにはとても思えません。
そのルール変更に何の意味があるのだろう?と思います。例えばスピンの難しい出方。スケーティングがとても汚くなっています。そのような変更や制限、言い方はなんでも良いですがそういった特徴を指定することによって、スケーターに細かい指示を与えることになっていて、その細かい指示というのはプログラムの中で何の役にも立っていません。さらには美的感覚もない。音楽性もない。彼らはもうただ単に、チェックボックスにチェックを入れているだけです。チェックリストの中に、どんどんチェック項目を追加しているように感じます。
今年は不恰好なイリュージョンのスピンの出方が多いですね。
演技にプラスになるような難しい出方は見たことがないですね。
あなたのスクールはISU Centers of Excellenceの一つに指定されていますよね。それは今後どのような意味を持つのでしょうか?またSkating School of Switerlandを今後どのように発展させていこうと考えていますか?
他のCenters of Excellenceと連絡を取り合っています。これは重要なことだと思うのですが、私たちはシステムについて議論しています。つまり、私たちはフィギュアスケートの小さな小さなコミュニティですから、連帯して物事や問題点、そしてその解決策を話し合う必要があるのです。議題は採点システムであったり、スケート靴やブレードに使われている素材だったりします。今使用している素材が美しいスケーティングを実現するのに十分な性能がないのは間違いありません。このような小さなことが実はスケーターにとってとても重要なのです。
Centers of Excellenceはこういったことを議論し実現する良い機会になります。 また若いコーチの教育の機会でもあります。おそらくジャッジの教育の機会でもあるでしょう。ジャッジは大会に参加し、採点を行い、私たちにフィードバックを与えてくれます。でも、ルールを変更しようという時にも、私たちが働いている現場にはおそらくあまり足を運んでいないでしょうね。コーチとしてスケーターを指導するときに、我々が毎日何と向き合っているかを彼らは知らないのです。スピンの難しい出方を入れてみようとか、スピンのポジションを難しいものに変えようとか、そうやって言ってみるのは面白いかもしれません。でも、毎日スケーターと一緒にスケートに取り組んでいるのは私たちです。その変化はスケーターに何を与えているのか、彼らがスケーターに何を求めているのか、ということを私は知りたいのです。地方の大会に出るのは小さな子供たちばかりです。彼らは基本的なチェンジフットスピンのやり方を知らないのに、シットサイドやシットバック、あれも、これも、と要求されています。でも私は、本当にポジションの綺麗で基本的なチェンジフットスピンを見たいのです。特徴的なものよりも、要素の質に重点を置いてもらう方が良いです。ですからこのCenters of Excellenceは、私たちが意見を共有し、ISUとコミュニケーションをとりながら、これらの問題について話し合うことができる素晴らしい機会だと思っています。
素晴らしいですね。スピンのルールについて、私のコーチは長い時間をかけて多くのジャッジと話し、何が変わったのかを理解しようとしていました。
スケーターに何を求めているのか。今のところ、誰もこれといった技を持っていません。上手なスピンをできるスケーターはたくさんいます。でも何か特別なことをやっている人は見られなくなってしまいました。みんな同じような技をやっていて、ジャッジも既知の技に対して評価を与えています。リスクを冒してもそれが評価されるかどうかはわかりません。それで創造性を発揮できなくなっているんです。
そうですね。将来的には、創造性を評価するためにコレオスピンを導入するのもいいかもしれませんね。でも採点するのは大変そうですね。
ショートはコンパルソリーの要素を取り入れて、フリーはより自由にという話がありました。これは良いコンセプトだと思います。その仕組みについてはもっと詳細に考える必要があります。コンパルソリーというのは、全員が全く同じことをしなければならないのか、それともある程度自由がきくのか、そしてフリーではどの程度自由なのか。定義が必要になりますね。
最近はスケートの美しさには繋がらないような細かい部分に必死になっています。
ステファン・ランビエル
長く続いているフィギュアスケート競技で、私たちが何を求めているのかいまだに解明しようとしているというのには驚きます。スポーツが何かということは、常に未解決の問題ですね。
まあ、6.0システムの方がフィギュアスケートはもっと美しくあれたと思うんですけどね。6点満点時代が懐かしいです。最近はスケートの美しさには繋がらないような細かい部分に必死になっています。細かいポイントが多すぎて、少し自分を見失っているような気がします。
フレンズ・オン・アイスでの宮原知子と荒川静香とのコラボレーションについてお聞きします。プログラム制作や、知子とのリフトはどうでしたか?
知子とは何年も一緒に仕事をしていますが、それ以上に尊敬しています。だから彼女と一緒に仕事ができたのはとても美しい瞬間でした。トリオでやるということと『ミス・サイゴン』のテーマは静香がアイデアを出してくれました。ファンタジー・オン・アイスから帰ってきたときに、このコンセプトでやりたいという話を静香から聞いて、曲を聴き始めました。
ミス・サイゴンのことはよく知りませんでした。知子がこの曲で滑っていたことは知っていたし、静香も多分知っていたと思います。でも音楽はよく知りませんでした。美しい音楽だということは知っていましたが、曲のことはあまり知らずに聴き始めると、とても気に入ったサウンドトラックがたくさんありました。どの曲を使うか、静香がどの曲で滑るかを少しずつ決めていくうちに、そう、三人とも一緒に滑ってみたいという気持ちが強くなっていきました。私は過去に静香と一緒に滑ったことがあります。だから、あのナンバーで彼女の意見を取り入れ、存在感を示すことができたのは良かったです。とてもドラマチックでした。三人ともとてもドラマチックなスケーターだと思います。だから静香の良いアイデアでとてもとても楽しく滑ることができました。
知子と氷上で出会う瞬間はとても特別なものでした。知子のイントロから始まって、お互いを見て、私が知子の方に近づいていく、その出会いの瞬間は、毎晩特別なものでしたね。そうですね、この最初に出会う瞬間と、もうひとつ別の瞬間も覚えています。私たちはスプリットジャンプをするんですが、そのスプリットジャンプの後、私は膝をついて、彼女は周りを見回します。その後手を繋いで、離れて、お互いを見つめながらスピンに入るんです。その瞬間もとても特別なものでした。私たちの間に起きていることは、とても特別なことなのです。
あのプログラムのために複数のリフトを習得されていたのもとても印象的でした。
そう、実はLiubov(シャンペリーでトレーニングしているウクライナの若い選手)が知子役をやってくれて練習していたんです。面白かったですね。
面白いですね。では、スケートの話題はこのくらいにして、最近読んでいる本や見ているもの、聴いているもので、インスピレーションを受けたり、楽しかったり、お薦めできるものはありますか?
大会中はひたすら数独をやっています。いつもは本を読んでいて、この本を結構ずっと読んでいます(鞄からユヴァル・ノア・ハラリの『21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考』を取り出す)。でも、数独をやる方が好きです。この本をずっと持ち歩いているのがわかると思います。この本が好きな理由は…かなり気が滅入る内容だからですね…
憂鬱な時代ですよね!
そうなんです!でも結構現実的です。私は、私たちが誰で、何が起こっているのか、もう少し理解したいんです。そしてあともう少し知ることで、私たちはもう少しうまくやれるようになると思うのです。だから役に立つんです。少しずつですが、次にお会いするときにはまだ読んでいるでしょうね。でもあと少しです。
21個のレッスンがあって、それぞれをゆっくり吸収していく感じですね。
その通りです。宗教とか、社会とか、技術とか…そういうパートも少しあるので実は面白いんです。それからこの夏のハイライトは、モントルー・ジャズ・フェスティバルでのパオロ・ヌティーニのコンサートです。とても衝撃的で、彼の新しいアルバムを聴くたびに、とても、とっても、興奮しました。このアーティストがとにかく大好きなんです。ちょうど昨日、彼が他にコンサートをやらないかどうか調べていたところです。全て売り切れていて、会場も遠かったです。確か彼は2日前はチューリッヒにいたと思います。まあとにかく、パオロ・ヌティーニの大ファンなんです。彼はステージに立つととても気前が良いです。それと、パオロ・ヌティーニの数日前にジョン・レジェンドを見たんですが、ジョン・レジェンドは最高でした。素晴らしいパフォーマーでした。でも彼はとてもしっかりリハーサルをしてからコンサートに臨んでいました。とてもよくやっていたと思いますが、リハーサルしたものそのままでした。パオロ・ヌティーニは完璧というほどではないけれど、とてもリアルでした。比べるべきではありませんが、私はそれがとても気に入りました。(驚いたような音)自由に与え、自由に分かち合う。彼の音楽は本当に大好きです。
毎回違うことをやっているから、何度も見たくなるミュージシャンなんですね。
その通りです、本当に全部のコンサートを見たくて、時々、何というか、ああ、どうしても見たい、という感じです。
最後の質問ですが、コーチを始めたばかりの頃に知っていればよかったと思うことは何ですか?
たくさんあります。12年前。本当にたくさんあります。コーチをするよりも滑る方が簡単だということを是非知っていたかったですね(笑)。
スケーターでいる時は、とても短期的な視点で物事を見ています。行動を起こしている最中だから、それは良いことだと思います。ここぞという時に自分で行動しなければなりません。でも時には少し距離を置いて、フィギュアスケートが自分のすべてであり、でも世界のすべてではないことを理解するのも良いと思います。その距離感は助けになります。でもアスリートの場合は、すべてが一瞬で常にプレッシャーを感じているから、距離を置くことはできません。今日こそはという気持ちが常にある。毎日のように、今日こそは、今日こそは、と。それが、アスリートとしてコントロールするのが難しい部分なのです。
その日の夜、デニスがフリースケーティングを終えたとき、私は選手にとっての時間のプレッシャーについて考えていた。「それは常に何かを期待するということ 」とデニスは話してくれた。「これからの4年間は私にとって重要で、少なくとも私のキャリアの中では、ハイライトになると思います。多くのことを期待しているし、多くを掴み取りたい」 ステファンは、デニスが展望を見出す手助けをするのと同時に、彼が目標を達成し、彼の「個性」を世に送り出す手助けをする存在であることを知ることができて良かった。

ステファンは今後、4つのグランプリ大会(高志郎:スケートアメリカ、昌磨とデニス:スケートカナダ、デニスと高志郎:MKジョン・ウィルソン杯、昌磨:NHK杯)に生徒が出場するため、多忙なスケジュールをこなすことになる。また、イタリアとスイスのショーでは、自らも滑る予定。